Masuk機械音混じりの声が、私を呼んだ。
「——何? カナタ」
この子はカナタ。私たちの町『
生まれた時、四肢はあったけど、口と鼻がなかったらしい。義肢の代わりに、顔には鼻から顎にかけて金属製の
呼吸や食事、発声のために、喉に埋め込まれたチョーカー型の
『莉愛、大丈夫?』
「えっ? 何が?」
『すごく怒ってたから』
多分、さっき拓斗が言った時のことを言ってるんだと思う。カナタの席は私の後ろだから、私の様子が見えていたんだ。
「あれは怒るよ!カナタは怒らないの?」
『うん。莉愛が代わりに怒ってくれたから』
——いけない。カナタの怒る権利を、私が奪っちゃった。
カナタは、見た目や機械音の混じる声のせいで、周囲から奇異の目で見られることも少なくない。四肢が全部あることで好奇の目で見てくる人もいるけど、さっきの拓斗みたいに、酷い態度を取る人だっている。
だけど、私に言わせれば、義肢であることを当たり前に受け入れている方が、よっぽど不思議だ。私は、義肢であることがどうしても受け入れられない。
(どうして私だけが、こんな気持ちになるんだろう)
過去の出来事を知って、理解はしているつもり。でも、納得はできない。
この違和感を前にお母さんに話した時、「変なことを言うのね」って、笑って流された。それから私は、この気持ちを誰にも話さなくなった。
「……ごめんなさい」
私が謝ると、カナタの目が僅かに大きく開いた。
『どうして謝るの?』
「だって……今回のこと、怒るのはカナタの権利じでしょ?」
んー、と少し考えてから、カナタは答える。
『……怒るの、疲れるし……嬉しかったよ』
カナタの目元が、柔らかく微笑んだ。
口が無いから表情が乏しくて、基本的にカナタは無表情だ。眉間にしわを寄せることはあっても、笑うのは結構レア。
だから、笑ってくれたのが嬉しくて。さっきの拓斗の悪ふざけなんて、どうでもよくなった。
「それなら、よかったっ」
私も、笑顔で返す。
肩掛けの学生鞄を手に取り、窓からの日差しは暖かいけど、まだ二月。外はまだ寒い。
横を見ると、カナタも黒いコートを身につけているのが見えた。その姿を確かめてから、私はカナタと並んで自分の席へと戻った。
帰りの準備ができた生徒たちは、思い思いにお喋りしたり、魔法で遊んだりしている。
初等部の魔法授業は、歴史や理論の勉強が中心で、実技はない。でも、魔法に慣れるために、決められた魔法なら自由に使ってもいいことになっている。
今は、触覚魔法を使って折り紙を折り、それを飛ばして動かしている子たちがいた。折り紙で作られた鳥が三羽、フラフラと飛んでいる。
これは、手紙を運ぶ魔法の基礎で、全ての魔法使いに必須の魔法。
「今日は、ウチに寄る?」
ノートを鞄に入れてから、後ろに振り返って、カナタに聞く。
『今日もお邪魔していいの?』
「うんっ。お父さんもお母さんも、カナタなら大歓迎だって!」
カナタとは、初等部に入るずっと前からの付き合い。
出会ったのは、緑の教会。養護施設だけじゃなく、保育所の役割も果たしている場所。共働きの両親に代わって、私は兄と一緒にそこへ預けられていた。
教会の図書室の片隅、本を読む小さな姿。話しかけたのは、私からだった。最初は全然話せなかったけど、気付けば、カナタの隣が私の指定席みたいになっていた。
そうすると自然とカナタと兄も仲良くなり、お父さんとお母さんとも仲良くなった。
『じゃあ、……お邪魔しようかな』
「やったぁ! 遊ぼう遊ぼう!」
『宿題してからね』
「うっ……。
初等部の勉強なんて、朝飯前でしょう。
ぜひ見てもらいたい。『莉愛って、意外と勉強苦手だよね。授業で指されてもちゃんと答えるから、得意かと思ってた』
「いっぱい頑張ってるんですっ! カナタの方が頭いいよ。羨ましいなぁ」
『そうかな? ……小さい頃から本ばっかり読んでたからかも』
養護施設の本といっても、絵本じゃない。歴史書や五感魔法の参考書ばっかり。
頭の良さでいったら、中等部並か、それ以上かもしれない。下手したら、
「
『もちろん、頑張るね』
またカナタの目元が微笑んだ。今日は良い日だ。
賑やかな教室に、先生が出席簿を持って入ってきた。
「はい、では帰りの会を始めます。席に着いてください」
ふわふわ飛んでいた折り紙の鳥たちは、それぞれの元へ戻り、生徒たちは席に着く。
「早退した人はいませんね。では今日の連絡事項です。明日からの連休中に、中等部で使う羽織と制服が届きますので、受け取れるようにしてください。受け取ったら一度袖を通して、問題があれば連絡帳に書いて月曜日に提出してください。これは、朝に配ったプリントにも書いてありますので、帰ったらご両親にちゃんと渡してください。皆さんから何か連絡事項はありますか?」
キョロキョロと周囲を見渡す生徒たち。特になさそう。
「では、帰りの会を終わります。日直、号令をお願いします」
「起立、気をつけ、礼!」「「「さようならー!」」」
学校の1日が終わる瞬間。教室に一気に開放感が満ち溢れる。この瞬間が、私はとても好き。鞄を持ち、友達とバイバイと挨拶しながら、カナタと教室を出ようとした時——拓斗の取り巻きが、こっちを見てニヤニヤしていた。拓斗だけは、カナタを睨んでいた。
あぁ、せっかく気分よかったのに。あの時の苛立ちが、またふつふつと戻ってくる。
あんな笑い方しかできないのかな? 無視して、靴箱へ向かった。
靴を履き替えながら、つい文句を垂れる。
「何で、あんな風に聞くかな!?」
『…でも、先生の説明、勉強になったんじゃない?』
「それはそれ! 私が怒ってるのは、拓斗の“聞き方”! あとその取り巻きっ!」
私は少し乱暴に靴を履き替え、カナタは丁寧に履き替える。
「教室を出る時も、じっと見てきたし。本当に不快にさせる天才!」
『まぁまぁ……』
カナタがなだめてくれる。——いけない。またカナタの怒る権利を、私が奪っちゃった。
反省、反省。
学校を出ると、空は少し金色になった青色。澄んだ空気が、景色を美しく見せてくれる。
でも、冬の夕方は寒い。急いで帰って、宿題を終わらせよう。
白い息が、寒さを物語っている。二月もそろそろ終わるけど、春はまだ遠い。私は首元のマフラーに顔をうずめた。
「寒いね。カナタ、大丈夫?」
『うん。新しい魔法を覚えたから』
「えっ、なになに?」
カナタは、自分の首元のチョーカー型
『手、近付けてみて』
言われた通り、私はカナタの首元に手を伸ばす。
すると——ほんのり、温かい。「わっ! あったかい! これ、何ていう魔法?」
『触れてる付近を温める触覚魔法だって。僕、マフラー使えないから、施設で教えてもらったんだ』
カナタは、喉に呼吸口があるから、マフラーは巻けない。喉元にある緑色の魔法石とチョーカーの蔓模様が、柔らかく光っている。その横で、小さな歯車がくるくる回っていた。
「小さい
『うん。大丈夫』
「なら良かったぁ。……あったかぁい……」
『気に入った?』
「うんっ! もっとぬくぬくしたいけど、帰らなきゃ。暗くなっちゃう」
帰り道である街並みは、不思議な調和を持っていた。石畳の道沿いに並ぶのは、瓦屋根の木造家屋と、ステンドグラスをあしらった洋館。格子戸の隣に、アーチを描いたアイアンの門扉が自然と馴染んでいる。
和風の引き戸を開けると、洋風のシャンデリアが迎えてくれるような、そんな風景がここでは当たり前だった。
通りを照らすのは、ガス灯を模した
そんな光景を眺めながら、カナタとおしゃべりしながら歩いていると——あっという間に、家に着いた。
私の家は、町の中央通りから一本外れたところの、街灯が並ぶ静かな住宅街の一角にある。
門扉を開けると、玄関脇のステンドグラスに描かれている、優美な曲線を描く蔓草に囲まれている一輪の百合が、夕陽を受けてやわらかく輝きながら出迎えてくれる。「ただいま」と言って、玄関のドアを開けた。
体育館に着くと、四つのコートをぐるっと囲むようにして並んだ座席に、もうたくさんの同級生たちが座っていた。前の方からどんどん埋まっていって、広いはずの体育館なのにどこか落ち着かない空気が漂っている。 クラスごとにまとまってはいるけど、席順が自由だからか友達同士で小さく笑い合う声も混じっていて、少しだけお祭りみたいな雰囲気だった。私たち五人もなるべく前の方の座席に腰掛ける。 体育館の真ん中に、銀色の支柱で組まれた即席のステージが置かれていた。 その周りを取り囲むように、折り畳みの椅子がずらりと並んでいる。椅子の金具が光を反射していて、何だかちょっと緊張感がある。 私たちが座る席は、床よりも高いところにあった。だから、真ん中の体育館を上から見下ろすみたいに全部見渡せる。座席の下には扉や通路があって、先生や先輩たちが出入りしている。 その中には、生徒会役員の利玖の姿もあった。(そう言えば、生徒会の説明もするって、さっき言ってたっけ)「利玖先輩もいるねっ。生徒会の説明もあるの?」 私の隣に座る拓斗のさらに隣にいる詩乃ちゃんが、体を前に少し倒して顔をひょっこりと見せながら私に尋ねた。「うん、そうみたいっ」 答えながら私は自然と視線を利玖の方へ戻す。即席のステージに立つ利玖は、真剣な眼差しで生徒会役員たちに確認しながら指示を出している。姿勢はきびきびとしていて、周りの役員たちもそれに応えるように頷いたり少し緊張した顔で資料を確認したりしていた。 その中心に立つ利玖の表情は落ち着いていて、どこか余裕すら感じられる。口元に微かな笑みを浮かべながらも、視線は鋭く仲間を見渡し必要な言葉を的確に投げかけているみたい。(まさに、生徒会副会長だ) 兄として知っている、いつもの優しい利玖とは少し違う。みんなを引っ張る姿は頼もしくて、胸の奥にじんわり高揚感が広がっていく。私はその感覚を隠すように、ただ黙って利玖たちの様子を眺め続けた。・・・ 準備が進んできたのか、説明してくれる先輩たちが次々とステージの周りの椅子に座り始めた。 委員会の先輩たちはまだ手元の資料を開いて、隣の人と小声で確認し合っている。ピリッとした空気があって、何だか「ちゃんとしてる」って感じ。 一方で部活動の方はもうすっかりリラックスしていて、笑いながら話している人も多い。そっちはそっちで
私たちが他愛もないお喋りに夢中になっていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響いた。慌ただしく席に戻る生徒たちの気配の中、私と玲央くんも立ち上がる。 カナタの机に寄りかかっていた私は、そっと横を振り向くと、カナタと目が合った。(バイバイっ) 心の中で呟きながら小さく手を振ると、カナタもほんの一瞬だけ目を軽く見開いた後、小さく手を振り返してくれた。その控えめな仕草にほんのり胸が温かくなる。 自分の席へ戻った私は、窓を背にして椅子に横座りして玲央くんに体を向ける。もう少しだけ昼休みのあの空気を楽しみたかった。「次、体育館だよな? 委員会と部活かぁ、絶対入らないといけないのかなぁ」 玲央くんが、少し気怠そうに呟く。「どうだろうね? もしそうだったら、何に入ろうかなぁ」 私も同じように空を仰ぐ気持ちで答えた。昼休みの余韻と、これから始まる午後の時間。その狭間で、ちょっとだけ時間が止まったみたいに感じた。 教室はどんどんクラスメイトが戻って来て、日向先生が来るのを待つ。・・・ 扉の開く音がすると、教室の視線が一斉にそちらへ向く。日向先生が手に資料を抱えて入って来た。「皆さん、もう席に着いていますね。助かります」 にこやかな笑みを浮かべながら、先生は教壇に立つ。「では、五時間目からは体育館に移動してもらいます。委員会と部活動と、ちょっとした説明がありますので、案内に従って着席してくださいね」(あれっ、出席番号順じゃないのかな?) ほんの少し胸の奥に期待が芽生え、自然と笑みが溢れた。 先生は続ける。「体育館では席は出席番号順ではありません。委員会はともかく、部活動は交流の場でもありますから、相談するために友達とまとまって座っても構いません。その代わり、はしゃぎすぎないこと。私たち教員がしっかり見ていますからね」 日向先生の声が教室に響くと、ふわりとした安堵の空気が広がった。それと同時に、どこか背筋が伸びるような緊張感も漂う。「よかったなっ」 後ろの席から玲央くんが小声で囁きかけてきた。振り返らなくても、ニッと笑っている顔をしているのが目に浮かぶ。私は思わず小さく頷いてしまった。「では、これから配る資料を持って廊下に並んでください。ただし——騒いだら、出席番号順に並んでもらいますからね」 先生が手にした束
それからカナタはいくら話しかけても黙り込んでしまい、教室に着いたらすぐに自分の席に腰を下ろした。 とは言っても、詩乃ちゃんたちと席は近いから、別に何の問題もなかった。私はふぅと小さく溜息を吐いて、カナタの机に寄りかかりながら詩乃ちゃんたちの方を向いた。 私たちより早く戻っていた三人は、楽しそうに話し込んでいた。「瑛梨香先輩……あの人の振る舞いが、まさにあたしがなりたい姿かもしれない……」 優ちゃんは夢見るように目を輝かせて、まだ頭の中に残っている瑛梨香先輩の姿を追いかけているみたいだった。「分かる〜! 瑛梨香先輩、ほんっと綺麗だよね。入学式で初めて会った時も、みんなうっとりしてたもん!」 詩乃ちゃんが、手を胸の前で組んで強く頷く。「確かに綺麗な人だったな。何ていうか……『実は妖精でした』って言われても、信じちゃいそう」 玲央くんが感心したように言う。「あれっ? 信じないんじゃなかったっけ?」 私はすかさず茶化すようにツッコミを入れる。「その信じない俺が信じそうなくらい、綺麗ってこと!」「なるほどっ」 確かに妙に説得力がある言い回しに、思わず私も納得してしまった。 そんなやり取りをしていると、ちょうど食堂から拓斗が戻って来た。「拓斗くん、おかえり〜っ。何食べたの?」 詩乃ちゃんが勢いよく問いかける。「和食」 短くも律儀に答える拓斗。初等部の頃では考えられない雰囲気に、私は少し驚いた。「うまかったぁ?」 今度は玲央くんが拓斗の前の席に寄りかかりながら、ごく自然に問いを重ねる。「あぁ、うん。……誰?」 自分の席に座ろうとした拓斗の視線が、玲央くんに向く。「玲央っ。よろしく〜!」 屈託のない笑顔と共に差し出される言葉に、拓斗はほんの僅かに間を置いてから頷いた。「……よろしく」 その律儀な返事に、何だか場の空気がふっと和やかになるのを感じた。 そしてふと、私はさっき優ちゃんが口にしていた聞き慣れない言葉のことを思い出した。「ねぇねぇ、優ちゃん。『エス』って何?」私が尋ねると、詩乃ちゃんと玲央くんも「知りたい!」って顔をして優ちゃんの方を見る。 拓斗は拓斗で「エス?」と眉を寄せ、頬杖をつきながら不思議そうに目を向けていた。 優ちゃんは小さく笑うと、ゆっくりと説明を始めた。「『エス』っていうのはね、尊敬する上級生
食堂を後にした私たちは、教室へ戻るために鏡に向かって廊下を歩いていた。すると背後から元気な声が飛んできた。「莉愛ーっ、カナターっ!」 私とカナタはお互いが呼ばれたことに小さく驚いて、顔を見合わせてから振り向く。「あっ!」 そこには利玖と瑛梨香先輩、そして隣に初めて見る、多分上級生の男子生徒が立っていた。玲央くんよりもずっと髪が長くて、ひとつに結んでいる。何だか寡黙な人で、どことなくカナタに雰囲気が似ている。 私は利玖に手を振り、瑛梨香先輩と隣の先輩に軽くお辞儀する。カナタも同じように頭を下げた。「こんにちはっ」「こんにちは。ご飯、美味しかった?」 瑛梨香先輩の柔らかい笑顔に、私は自然と顔が綻ぶ。「はいっ、美味しかったです!」 瑛梨香先輩は、ふふっと微笑んだ。 すると利玖が、ふと玲央くんの顔を見つめて目を瞬かせた。何か思い出したように少し目を見開くと、少し間を置いて口を開いた。「あれっ、確か玲央くん、だっけ?」「えっ、すご。もう名前覚えてくれたんですかっ!?」 玲央くんの目が一瞬、キラリと輝いた。先輩に名前を覚えてもらえたことが、玲央くんにはちょっとした自信になったんだと思う。「昨日の歓迎会で喋ったしねっ、さすがに印象は残ってるよ。昨日は楽しかった?」「はいっ! 楽しかったっス!」「それはよかった。てか、莉愛と同じクラスになったの? カナタも?」『そうみたい』「すげーな。全クラス二百組あるんだぞっ?」 利玖は信じられない、という顔で目を丸くして笑った。 その表情に、思わず私もクスッと笑ってしまう。二百組もの中で偶然同じクラスになるなんて、確かに運命みたいだな、と心の中で呟いた。 利玖が瑛梨香先輩たちに私たちを紹介して、その後私たちにも先輩たちを紹介してくれた。「莉愛は知ってるよな。生徒会副会長の瑛梨香と、こっちも生徒会副会長の学」 瑛梨香先輩と学先輩は、揃ってペコリと頭を下げる。私たちも自然にお辞儀を返した。「生徒会副会長って、三人もいるんすね」 玲央くんは目を丸くして驚いた様子で呟く。それを聞いた瑛梨香先輩と利玖は、ふふっと微笑んだ。「いいえ、七人よ」「し、七人っ!?」 玲央くんの声が少し高く弾んで、思わず私もクスッと笑う。副会長の人数の多さに、廊下の空気が少しざわついた。「まぁ
「あ、何。カナタも、芽依ちゃん知ってんの?」 玲央くんは口に含んだ麻婆豆腐を飲み込んで、カナタに問いかけた。『まぁ、今日初めましてだったけど』 中身が減って小さくなったパックを、綺麗に潰れるようにギュッギュッと器用に潰しながらカナタは答える。「……協力者は、多い方がいいよな。カナタ、俺は芽依ちゃんと仲良くなりたい。協力してくれ」 カナタは目を見開いて、玲央くんを凝視した。『……はぁ。…………なるほど』 カナタは玲央くんをジッと見て、すごい間を置いて反応した。何か深く考え込んでたみたい。 するとカナタはパックを飲み干したようで、チョーカーから空になったパックを取り外した。ぺたんこになったパックに蓋をして小さく丸める。 そして今度は金属製のストローをチョーカーに差し込み、また肘をつきながらアイスコーヒーをスッと飲み始めた。 私はもう見慣れた光景だけど、その手際の良さに玲央くんはまた目を輝かせる。『……協力って言っても、何をすればいいの? 今日会ったばかりだから、玲央のことも芽依ちゃんのことも何も知らないけど……』 カナタは足を組んで、アイスコーヒーのグラスを軽く揺らしながら首を傾げる。「まぁ、俺らはこれから仲良くなるとしてさ。芽依ちゃんのことは莉愛ちゃんから聞けばいい。で、芽依ちゃんと関われそうなタイミングが来たら……うまーく繋いで欲しいっ」 玲央くんはお皿の麻婆豆腐をかき集めながら、自信満々というよりも楽しそうに笑いながら言った。『……なるほど。何となく分かったよ』 玲央くんの言葉にカナタは「そんなもんでいいのか」とでも言いたげに、アイスコーヒーを持つ手と反対の手で頬杖をついた。その温度差が少し可笑しくて、私は小さく吹き出してしまった。『……そんな瞬間が僕に来るかは分からないけど、もし来たら玲央を呼べばいいんだね?』「自然になっ!」 勢いよく言い切る玲央くんに、カナタはほんの僅かに肩をすくめて答えた。『努力します』 その落差がまた面白くて、私はオムライスを口に含みながら笑いを堪えるのに必死だった。 ……そう言えば、玲央くんはいつの間にかカナタを呼び捨てにしていた。それを咎めることもなく、寧ろ当たり前のようにカナタも玲央くんを呼び捨てにしている。 この短時間でもうこの距離感になったのかと感心する。だけどそれが違和感にならな
「ねぇねぇ、ダメ? もっと話聞きたいんだけど!」『えーっと……』 カナタは初めて向けられる“好意的な誘い”に、どう答えていいのか分からないようだった。(これは、私は口出ししない方がいいよね) これはカナタが自分で決めること。でも、不安そうなカナタの背中を少しでも押せるように、「大丈夫だよ」って気持ちを込めて微笑みかける。 玲央くんなら、絶対にカナタを傷つけたりしない。まだ会ったばかりなのに、不思議とそう思えた。(またこれも勘、かな?) カナタがチラリと私を見て目が合うと、カナタの目元がほんのり安心したように緩んだ。そして——『……僕の食事は流動食だから。食堂のメニューは食べないよ。……一緒に食事って感じはしないと思うけど』「いいのいいのっ! 喋りたいだけだから! あ、もしかして見られるの嫌?」『いや……僕は別に』「じゃあ、一緒に食おうぜ〜! 莉愛ちゃんも来る?」 玲央くんが勢いで私まで誘ってくる。頭の中でカナタが質問攻めにされる未来が見えるから、私は苦笑して頷いた。「じゃあ……そうしよっかな」『……じゃあ、ちょっと待ってて』 カナタは教室に戻り、学生鞄から流動食のパックとチョーカーに繋げるストローが入ったケースを取り出す。ついでに机に入れていた教科書も、ロッカーにしまって戻ってきた。「よーしっ、じゃあさっさと行こーぜ!」 玲央くんは自分の教科書を勢いよくロッカーに突っ込み、私とカナタの肩を軽くポンッと叩く。その軽さに押されるようにカナタと顔を見合わせ、食堂へ行くために玲央くんの後に着いた。 ——階段の踊り場。そこには、鏡を前に躊躇して足を止めた生徒たちが大勢集まっていた。「ちょっと通るよ〜」 玲央くんが人混みを掻き分けると自然と道ができる。その後ろを私とカナタは通って行く。「えぇっと……行きたいところを思い浮かべるんだよな。《食堂》でいいのかな? それとも《別館》?」『……《食堂》でいいと思うよ。食堂の近くに鏡がたくさんあったから』 そう言うと、カナタの魔械面から“キンッ”と音が鳴り、カナタが鏡に手を触れる。次の瞬間、鏡が静かに波打ち、カナタの体を飲み込んでいった。「「わぁ……っ!」」 近くで躊躇っていた生徒たちが、一斉にざわつく。「へぇ〜、んじゃ俺も!」 玲央くんは右足の魔械義肢







